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2026年9月の本

10月11日
読了時間: 3分

「KINDNESS 思いやりと優しさで世界を変える」ジャシンダ・アーダーン著 神崎朗子訳 三浦まり解説 河出書房新書

 

 私が(恐らく大半の日本人の方も)ニュージーランドの元首相、アーダーンを知ったのはコロナ禍ではないかと思います。世の中がロックダウンになり、特に米国を中心として連日膨大な数の死者数がニュースから流れてくる中、自宅と思われる場所からオンラインで国民にロックダウンを呼びかけるアーダーンの姿に正直びっくりしました。若い女性の首相というだけでも十分に目を引いたのですが、自宅??オンライン??そして何とも「国家元首らしくない」語り口は、全世界に彼女を名をとどろかせるのに十分でした。

 そのアーダーンの回顧録である本書。自分の民族的ルーツ、モルモン教との関係、子どもの頃に感じたこと、それが政治につながっていること、いわゆる「やり手」の自覚なく政治家として押し上げられていったこと、首相に就任すると同時に妊娠がわかったこと、コロナという誰も経験したことのない局面を乗り切った後、世界的なレジームチェンジの波の中で辞任を決断したことなど、どれも回顧録というより「お話」としての語りのうまさに、厚さ4センチの本を一気に読み切ってしまいました。オバマもそうですが、良い政治家は人の心に訴えかける言葉選びや話がとてもうまい(とはいえ、謝辞の中で自身はスピーチライダーであり、本の執筆を支えてくれた編集者にまっさきに感謝を述べているので、どこまでが自力の執筆なのか定かではありません)。

 世界は現在リバタリアン、ポピュリズムが主流のレジームに傾いています。かつて寛大だった国も、「自分が一番大事」に移り変わりつつあります。アーダーンのように「思いやり」や「やさしさ」を全面に出せば国民がついてくるわけではありません。意地悪な言い方をすれば、アーダーンは世の中がリバタリアン、ポピュリズム色が強くなる前の、ひと時の「良い時期」に首相になり、そのためその異色の政治手法ゆえに認知度が高まったのかもしれません。だからといって、そのリーダーシップの取り方、彼女の考え方が「たまたま世論に受けた」わけではないでしょう。今、この瞬間に各国を率いている主導者たちも取り入れるべきことが多くあるように思えます。

 P418にこんなくだりがあります「政府の仕事の多くは、結局のところ統計に行きつく(中略)だが私には、メンタルヘルスや自殺の問題を数字のレンズを通して見ることはできなかった。そこにいるのは人間なのだ。誰かの家族であり、友人であり、親友の兄弟だ」。

果たしてこの「人間としての感覚」を持ちながら政治を営んでいる人が世界中にどれだけいるのだろうか?そんなことを考えさせられました。

 神崎朗子さんのすばらしい訳も必読。それにしても原題「A Different Kind of Power」をこの日本語タイトルにするとは、AIではできない仕事。

 

★★★★★

 
 
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