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川辺に咲く桜

2026年3月の本

  • 4月15日
  • 読了時間: 3分

「誰も行ったことのない場所へ行こう。そして誰もやらなかったことをやろう。」出口治明 著 祥伝社

 

「あきらめれば人生は何とでもなる」—-これがこの本の冒頭の言葉です。ちょっとびっくりしませんか?

  著者は、元立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明さん。72歳で脳梗塞を患い、右半身に麻痺が残り、言語障害もある。それでもなお、現在も口述で執筆を続けています。

 そんな最も諦めが悪そうな方が「あきらめなさい」と言うのです。「あきらめる」といえば、普通はネガティブな言葉ですが、本書でいう「あきらめる」は違います。「明らめる」とは、現実をきちんと見て、受け入れることだといいます。

 現状を明らかにしないかぎり、次に何をすべきか、どこに向かうべきかは見えてこないからです。

 人間は、頭では理解していても、何かうまくいかないことが起こると「環境が悪い」「誰かのせいだ」と外に理由を求めてしまいがちです。

 かくいう私も 「AIのせいで仕事の質が変わった」、「自分だけがうまくいかない」などと世の中の変化を嘆き、人をうらやみ、不満を持つ人を見つけては「そーだろそーだろ」と同調するネガティブな状況に何度となく陥っています。


 でも本書を読んで、はっとしました。

 私はまだきちんと「明らめて」いなかったのではないか。

 

 機械化の歴史を振り返れば、産業革命時に織機が導入されラッダイト運動が起こりました。その後も電気、鉄道、自動車、飛行機と、人間はさまざまなものを発明し、生活や仕事は大きく変わってきました。しかし人間はそのつど、新しい環境に適応し、それなりに生きている。現実を受け入れたうえで、「ではどうするか」と考えて動く—-これはシンプルですが一番難しいのだと思います。


 もう一つ印象に残ったフレーズが、「人間みなちょぼちょぼや」という言葉です。

 人類最速の男でも、普通の人と走る速度は「数秒」しか変わりません(その数秒がすごいわけですが)。しかし、チーターや車などと比べれば、人間の走る速度の差なんで「ちょぼちょぼ」です。だからこそ、わずかな違いにこだわるのではなく、多様な個性が集まったほうが全体としての力が高まると説いています。


 しかし、現実は逆です。

 小さな差で優劣をつけ、突出した個性は抑えられてしまう。大学入試も、就職も、どこか息苦しさを感じる理由はここにあるのかもしれません。折しもホワイトハウスからDEIが生産性を落としたという眉唾もののレポートが出たばかり。多様性がきれいごとではなく、すべての人に受け入れられる社会になるには、まだ時間がかかりそうです。


 本書は若者向けに書かれていますが、正直なところ、大人にこそ刺さる一冊で、少し疲れているお年頃の方々にお勧めです。ハンディを抱えながらも書き続ける著者の姿が、その言葉に重みを与えています。


 先日亡くなった山崎元さんや森永卓郎さんも最後の著書が若者向けだったと記憶しています。出口さんもこれが最後にならないことを切に祈ります。


2026年4月15日


★★★★☆

 
 
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