2026年4月の本
- 5月5日
- 読了時間: 4分
1.「人生の経営戦略」山口周 ダイヤモンド社

売れっ子作家、山口周さんの著書。
「人生を経営戦略のように考えてみる」という、非常にわかりやすく、シンプルなコンセプトの本である。
ビジネスにおいてポジショニングが重要であるように、人生においても、自分が置かれた場所で咲けないのであれば、咲ける場所へ移動すればよい。あるいは、コア人材に注目して動くべきである。こうした土台となる経営理論そのものは、必ずしも目新しいものではない。
しかし、経営戦略の視点から人生を捉え直すという発想は、非常に面白い。とくに、以下の三つのポイントは参考になった。
1.流行の資格や学位は「筋の悪い選択」(P137)
資格や学位、あるいは新設された学部というものは、すでにその仕事に対するニーズがあり、社会的に隆盛してから生まれることが多い。つまり、それが制度化されたころには、すでに需要のピークを迎えている可能性がある。
ここ数年、データサイエンティスト系の学部が相次いで新設された。しかし、学生が卒業するころに、そのニッチな専門分野にどれほどのニーズが残っているのか、個人的には甚だ疑問である。データサイエンス系の学部に通っている方がいれば申し訳ないが、これはこの半年ほどのAIの劇的な進化を見ていても、無視できない問題である。
米国では、AIの進化によってコンピューターエンジニアリング系の学部卒の雇用環境が急速に変化している。過度な専門化は、かえって足をすくわれるリスクを伴う。リベラルアーツしか勝たん、なのかもしれない。
2.「長く続けてきたことに着目する」(P191)
強みや特徴を無理に探すのではなく、ただ好きだから長く続けてきたことに目を向ける。それが、いずれ自分を救うことになる。
最近読んだWSJの記事では、高収入の女性の特徴の一つとして「粘り強さ」が挙げられていた。好きだからこそ、粘り強く練習したり、勉強したり、試行錯誤を続けたりできるのだろう。
「好きなこと」は、軽く見られがちである。しかし、長く続けられるという事実そのものが、実は大きな資産なのかもしれない。
3.「流動性知能と結晶性知能」(P332)
心理学者レイモンド・キャテルによれば、流動性知能とは、「過去の経験や学習に依存せず、論理的に考えたり、パターンを見つけたりする知的能力」のことである。この能力は20歳前後でピークに達し、40代以降で急速に低下するという。
一方、結晶性知能とは、「過去の経験や学習によって蓄積された知能やスキルを活用する知的能力」のことである。経験や幅広い分野の知識の蓄積に依存するため、年齢を重ねるごとに向上し、50〜60代でピークを迎え、その後も高原状態を維持するという。
最近、年を取ることが有利に働くものは何だろうか、と考えることが増えた。若いころのようなフットワークの軽さや、瞬発的な発想力にしがみつくよりも、経験や知識の蓄積をどう活かすかを考えた方がよいのかもしれない。
人生の正午を過ぎたお年頃の私。
リベラルアーツと結晶性知能という武器、いや竹槍かもしれないものを手に、ウェルビーイングな人生を生きていきたいものである。
★★★★☆
2.「わたしのおとうさんのりゅう」伊藤比呂美 著 左右社

なぜこの本を図書館で借りたのか、もう覚えていない。きっと、どこかで書評を読んで気になったのだろう。同じ本を二度読むことがほとんどない私にとっては、買うよりも借りるという選択肢が一番妥当だったのだと思う。
物語は、著者が子どもの頃、印刷所を経営していた父が『エルマーとりゅう』のゲラを持ち帰り、読ませてくれたところから始まる。読み進めると、どうもこの父は、ひっそりと印刷所を営んでいるだけの人物ではないらしい。実はヤクザ者で、背中には彫り物が入っている。さらに大卒で、戦時中は戦闘機の教官を務めていたという。
父はどのように生き、なぜヤクザになり、そして家族を持ったのか。著者は父の人生を遡っていく。さらに、大好きだった父とは対照的に、あまり好きではなかった母。その母の人生も、自分が当時の母と同じ年齢になるにつれて、少しずつ理解できるようになっていく。
先日、縁あって「昭和100年式典」という政府主催の行事に参加した。昭和生まれの私にとって、「昭和100年」と聞くと、自分が生まれる50年ほど前に大きな戦争があり、まさに両親がその戦争をくぐり抜けてくれたからこそ、今の自分がいるのだと感じる。しかし、私の子どもたちの世代には、おそらくその感覚はないだろう。戦争とは、ずっと昔、どこか違う国で起きたものであり、自分とは関係のないもの。そうした受け止め方をしてほしくないからこそ、税金をかけて式典を行ったのだと私は理解していた。ところが、その中身は戦争を振り返るものでもなく、その後の経済成長も一言で片づけられ、一体何のための式典だったのかと、あきれてものが言えない内容だった。
さて、本に戻る。この本は、この100年を生き抜いてきた家族の歴史を紐解き、そこに著者自身を重ね合わせていく作品である。「どすん、どすん」という言葉で語りかけてくるような文章は、おそらくAIには書けないだろう。
昭和100年という節目のいま、ぜひおすすめしたい一冊である。
★★★★★



