気になる言葉
~翻訳の中で出会った言葉~

第34回 Labor hoarding(人材の囲い込み、雇用保蔵)

 

気がつけば2023年も最後の月。米国の株式指数は史上最高値をつける状況が続いています。

さてその米国経済を占ううえで、目下最も重要なのが雇用市場です。そこで今月の言葉はhoardingを取り上げます。

 

リーダーズ英和辞典でhoardingをひくと、最初に「秘蔵、退蔵、死蔵、貯蔵、貯蓄、買いだめ、貯蓄物」とありますが、2つ目に「(建設現場などの)板囲い、広告版、掲示板」とあります。「板囲い」という言葉になじみがなかったのですが、Oxford Advanced Larner's Dictionary の2つ目に「 a temporary fence made of boards that is placed around an area of land until a building has been built」とありました。工事に入る前の更地を囲んでいて看板に「○○様邸宅」みたいなのが書いてある、あれのことらしいです。

 最近、労働市場でlabor hoardingという行為が見られます。

 

2023年8月のForbesの記事では、Labor hoardingを次のように定義しています。

 Labor hoarding is a corporate practice where businesses keep more workers on their payroll than they strictly need. Employers will hold on to their talent tightly if the future of the business looks uncertain, there are concerns about competition or a desire to avoid layoffs.

 https://www.forbes.com/sites/jackkelly/2023/08/08/how-labor-hoarding-can-save-jobs-yet-cause-problems-for-workers/?sh=4190e5c257e6

 (試訳)

「人材の囲い込み」とは、厳密に必要とする以上に企業が労働者に給料を支払い続けて繋ぎとめておく企業慣行のことだ。企業は事業の将来性が不確実に見える場合や人材獲得競争が懸念される場合、あるいは解雇を避けたい場合に、従業員を雇用し続けるだろう。

 ここではlabor hoardingという言葉になじみがない人にもわかるよう、Oxford辞典を参照に「人材の囲い込み」と訳出しました。でも専門用語として「雇用保蔵」という訳語もあるようです。

 

 イミダスではこのように紹介しています。

 企業内失業者(雇用保蔵)[labour hoarding]

企業が生産活動に必要な人員以上に雇用している余剰人員。内閣府の定義では「実際の常用雇用者と生産に見合った最適な雇用者数の差」を示し、社内失業者過剰雇用者ともいう。

  <https://imidas.jp/hotkeyword/detail/A-00-205-09-08-H006.html>

 さらにこの用語は在庫に対しても使えるようです。WSJにはこのような記述がありました。

It is a sign that the inventory hoarding that characterized the postpandemic recovery is ending.

   https://www.wsj.com/business/the-rising-price-of-cardboard-a-positive-sign-for-the-economy-08908d0f?mod=Searchresults_pos5&page=1

 この場合は「貯蔵、貯蓄」と同義ですので、「新型コロナウイルス感染拡大の回復期の象徴だった在庫積み増しが終了した兆候がみられる」(試訳)みたいな感じで良いかと思います。

 

一部のコンサルティング企業ではレイオフが報道されている一方、大卒者をインターン生としてhoardingしているという記事も見られます(the companies hoarding intern talent more than a year in advance)。

  https://www.wsj.com/lifestyle/careers/companies-are-already-recruiting-their-2025-summer-interns-aa6d78a9?mod=Searchresults_pos1&page=1

 見通しづらい米国の雇用動向が続きそうです。

 

(2023年12月17日)

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