Tips For Translation
翻訳のツボ
 

第2回 写経の薦め(その2)
代名詞、同じ単語を見つけて1文に

第1回に続いて「写経の薦め」と題しまして、今回は「指示語、同じ単語を見つけて1文に」というテーマを取り上げてみようと思います。

 

私の英語は紛れもなく大学受験時の英語勉強が土台となっています。受験英語に賛否両論はありますが、大学受験英語のメリットといえば英文法を徹底的に叩き込まれ、精読させるところではないかと思います。

 

この英文法+精読を通じて正確に読むことはリーディングの基本ですが、受験だと元の原文を、一語一句訳抜けなく、その通りに翻訳しないとがつきます。出来上がりの「訳」が読みやすいかどうかではなく、「もれなく、左から右に移しているか」ということを重視します。実はこれ、訳文の質を落としかねない訳し方なのです。

 

言うまでもなく日本語と英語は構造が違います。英語では頭でっかちの主語を嫌がる傾向にあるため、主語について説明しようとすると、「Sは~である」という文章を作り、それを修飾節で説明するか、あるいはもう1つ文章を立てて2文で説明することが多くなります。

 

次の例を見てみましょう。

 

This book is a foundation to the overall education program. It provides a learning

process that can be effectively used during your career development.

 

直訳すると

この本は教育プログラム全体の基礎である。それは、あなたのキャリア形成において効果的に活用できる学習過程の概要を説明している。

 

ですね。受験で「この文を日本語に訳せ」と言われれば問題ないと思いますが、翻訳となるとどうでしょうか?なんだかとても機械的ではないでしょうか?そもそも日本語で「それは」とか「これは」とかいう代名詞を訳出すると、ざらりとした違和感はありませんか?

 

ところでこの元の英文は、実は次のように書き換えられます。これもまた「関係代名詞を使って書き換えよ」という問題としてよくでてくる問題です。

 

The book which is the foundation to the overall education program provides a learning process that can be effectively used during your career development.

 

教育プログラム全体の基礎を成すこの本は、あなたのキャリア形成において効果的に活用できる学習過程を説明している。

 

意味としては同じなのですが、こちらの方がすっきりしますよね。つまり英文2文で1つのことを説明しているケースなので、日本語では1文にした方が分かりやすいわけです。英語が2文だからといって、日本語まで2文にする必要はありません。「対訳」でなければだった受験英語がなかなか抜けなかった私は、このことに気がつくのに非常に時間がかかりました。

 

ではどのような場合に、2文の英語を1文の日本語に訳すとより「滑らかな」日本語になるでしょうか?ちょっとしたコツがあります。次の文章を見てください。

 

To assess the issue empirically, we looked for measures of risk in those markets to see if they correlated with the spread. One good measure of risk is the difference between interest rates on unsecured and secured interbank loans of the same maturity.

 

原因を実証的に究明するため、短期金融市場のリスク指標でLIBOR-OISスプレッドに相関するものがないか調べたところ、機関が同じ銀行間貸出における無担保取引と有担保取引の金利スプレッドがよい指標になることがわかった。

 

(原文 Getting off track: John B. Taylor P17/訳文 脱線FRB 訳 村井章子 P21)

 

こちらは元が2文の英語を、見事に1文で読みやすく日本語にまとめています。このように1文でまとめると良い文の見分け方は

 

                     2つの文章が関連している AND 2つの文章の中に同じ単語がある

 

ということです。つまり同じ単語=キーワードを2文で説明しているため、日本語で1つにまとめてしまう方がすっきりするうえ、修飾関係が分かりやすくなるわけです。ちなみに上記の訳では、2文目も前回取り上げた「述語から訳す」ことで、さらに読みやすい日本語になっていることが分かると思います。

 

翻訳という作業は、左から右にそのまま置き換えるのではなく、全体の意味を咀嚼したうえで、より分かりやすい日本語に組み替えて表現し直すという作業なのです。

2020年2月20日

 

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