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第21回 Economic Cycle(景気サイクル)ってなんだろう?(その1)

全米経済研究所(NBER)は7月19日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う景気後退は2020年4月が「谷」となり、今回の後退局面は2カ月と過去最短になったと発表しました。ここ2年ほど「Ecnomic Cycle」という言葉が頻出しましたが、果たして景気サイクルとは何でしょうか?

 

アメリカの景気サイクルを決める(ここからが景気拡大期とか、ここからが景気後退期とか)のは経済データを収集している政府機関ではなく、このThe National Bureau of Economic Research全米経済研究所NBER)という民間の研究機関です。その中にあるBusiness Cycle Dating Committee(景気循環日付判定委員会)が、いつから景気拡大期に入ったとか、ここまでが景気拡大だった、とか判定します。この委員会は景気サイクルをretrospective(遡及的)に、つまり、景気転換点の確定を完全に判定できるようになってから後付けで「景気のピークはここまでだった」と宣言します。だから19817月が景気の山だったというのは、19821月まで確定されなかったし、同年11月の景気の谷は19937月まで確定されませんでした(「株式投資」ジェレミー・シーゲル 日経BP者)。今回もNBER20204年が谷だったと、13カ月経って宣言しておりますので、サイクルの確定自体にはかなり時間がかかります。

 

今回は2020年2月がpeakだったと言っているので、その翌月、つまり20203月から景気後退入りし、この景気後退が20204月に終了していた、と言っています。したがって、景気後退期は過去最短の2カ月ということになります。このpeakの翌月からtroughまでがrecession(景気後退、今回は2カ月)、troughの翌月(20205~)から次のpeakまでがexpansion(現在は絶賛景気拡大中)でサイクルの半分になります。

 

NBERによる「正式」なサイクルの確定とは別に、一般的には、2期連続GDPがマイナスになると自律的景気後退(techical recession)入りと言われています。NBERではGDPの他、実質個人所得(GDI)、雇用、鉱工業生産、などさまざまな指標を見て景気循環の日付を確定しており、特に経済活動の変動のdepth(深さ)、diffusion(変動)、duration(期間)を重視していると明言しています。ですので単に2期連続でGDPがマイナスになっただけではNBERは景気後退を宣言しません。

 

 

NBERによる景気サイクルの認定

 

景気後退期

景気拡大期

景気サイクル

 

景気の天井

景気の谷

天井から谷までの月数

谷から天井までの月数

谷から谷まで

天井から天井まで

 

December 1854 (1854Q4)

 

 

 

 

June 1857 (1857Q2)

December 1858 (1858Q4)

18

30

48

 

October 1860 (1860Q3)

June 1861 (1861Q3)

8

22

30

40

April 1865 (1865Q1)

December 1867 (1868Q1)

32

46

78

54

June 1869 (1869Q2)

December 1870 (1870Q4)

18

18

36

50

October 1873 (1873Q3)

March 1879 (1879Q1)

65

34

99

52

March 1882 (1882Q1)

May 1885 (1885Q2)

38

36

74

101

March 1887 (1887Q2)

April 1888 (1888Q1)

13

22

35

60

July 1890 (1890Q3)

May 1891 (1891Q2)

10

27

37

40

January 1893 (1893Q1)

June 1894 (1894Q2)

17

20

37

30

December 1895 (1895Q4)

June 1897 (1897Q2)

18

18

36

35

June 1899 (1899Q3)

December 1900 (1900Q4)

18

24

42

42

September 1902 (1902Q4)

August 1904 (1904Q3)

23

21

44

39

May 1907 (1907Q2)

June 1908 (1908Q2)

13

33

46

56

January 1910 (1910Q1)

January 1912 (1911Q4)

24

19

43

32

January 1913 (1913Q1)

December 1914 (1914Q4)

23

12

35

36

August 1918 (1918Q3)

March 1919 (1919Q1)

7

44

51

67

January 1920 (1920Q1)

July 1921 (1921Q3)

18

10

28

17

May 1923 (1923Q2)

July 1924 (1924Q3)

14

22

36

40

October 1926 (1926Q3)

November 1927 (1927Q4)

13

27

40

41

August 1929 (1929Q3)

March 1933 (1933Q1)

43

21

64

34

May 1937 (1937Q2)

June 1938 (1938Q2)

13

50

63

93

February 1945 (1945Q1)

October 1945 (1945Q4)

8

80

88

93

November 1948 (1948Q4)

October 1949 (1949Q4)

11

37

48

45

July 1953 (1953Q2)

May 1954 (1954Q2)

10

45

55

56

August 1957 (1957Q3)

April 1958 (1958Q2)

8

39

47

49

April 1960 (1960Q2)

February 1961 (1961Q1)

10

24

34

32

December 1969 (1969Q4)

November 1970 (1970Q4)

11

106

117

116

November 1973 (1973Q4)

March 1975 (1975Q1)

16

36

52

47

January 1980 (1980Q1)

July 1980 (1980Q3)

6

58

64

74

July 1981 (1981Q3)

November 1982 (1982Q4)

16

12

28

18

July 1990 (1990Q3)

March 1991 (1991Q1)

8

92

100

108

March 2001 (2001Q1)

November 2001 (2001Q4)

8

120

128

128

December 2007 (2007Q4)

June 2009 (2009Q2)

18

73

91

81

February 2020 (2019Q4)

April 2020 (2020Q2)

2

128

130

146

 

 

 

 

 

 

1854-2020

 

17.0

41.4

58.4

59.2

1854-1919

 

21.6

26.6

48.2

48.9

1919-1945

 

18.2

35.0

53.2

53.0

1945-2020

 

10.3

64.2

74.5

75.0

出所:NBER

https://www.nber.org/research/data/us-business-cycle-expansions-and-contractions

 

 

景気の天井、谷以外にもいろいろとサイクルにまつわるお話はありますので、これはまた次回ということで。

 

(2021年7月20日)

 

 

 

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