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第2回 Current Expected Credit Loss(CECL)-現在予想信用損失

新型コロナショックがまだまだ収まらない中、J.Pモルガンを皮切りに米国大手銀行の決算が発表されました。今回はその補足をこちらでしたいと思います。

 

今回の決算の注目は何と言ってもCurrent Expected Credit Loss(CECL)でしょう。日本語では「現在予想信用損失」という名称がついています。

ちなみにCECLはアメリカの会計基準FASBによるもので、IFRSではこの似たような概念の信用損失をExpected Credit Loss(予想信用損失)と言っています。

 

そもそもこのCECLは2008年の金融危機の時に貸倒引当金の計上額が「too little, too late(少なすぎるし遅すぎる)」として見直しが進められたことが発端です。10年に及ぶ紆余曲折を経て、大半の大手銀行は2020年1月1日から始まる会計年度からこの会計処理を適用することになっています。

 

さてこのCECLですが、これまでの貸倒引当金計上方法と何が違うかというと、従来のincurred loss model(発生損失モデル)は、財務の著しい悪化や返済の延滞などの証拠があった場合に引当金を計上していました。

 

それに対してCECLはhistorical information(過去の情報)、current conditions(現在の情勢)、reasonable forcasts (合理的な予測)を活用して債権の期間全体の期待損失をあらかじめ予測して貸倒引当金を計上するというものです。

 

新型コロナで景気が悪く、失業率がこんな高くなってる時にCECLなど導入したら、貸倒引当金が多くなって、貸し渋りが増えるじゃないか!というのがトランプ大統領と米議会のお考えだったようです。3月下旬にまとめた「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)」ではCECLの適用を1)国家非常事態宣言が終了する日、または、2)2020年12月31日、のいずれか早い日まで延期しても良い、と盛り込まれました。

 

独立した民間非営利組織である米財務会計基準審議会(FASB)の策定した会計基準に政治が介入するまさしく越権行為なわけですが、銀行の決算を見る限りこの適用を申請している事例は見当たりません。

 

それはなぜかと言えば、

1.そもそもこのCARES法が成立したのが3月下旬ぎりぎりで、第1四半期決算末(3月31日)を控えほとんどの銀行に検討する時間的余裕がなかった

 

2.仮に国家非常事態宣言が大半のエコノミストが予想する「年後半の回復」シナリオ通り、年央に終了された場合(仮に7月だとしよう)、銀行はその時点で適用延期期限を迎えるため、次の四半期(10-12月期)からはCECLを適用しなければならない。

 

3.さらにその場合、それまで適用していなかった3・四半期についても通期の決算のために「年初からCECLを適用していた」ように財務諸表をrestate(書き直し)しなければならない

 

4.大手銀行は過去3年以上、CECLの適用に莫大な投資をしてきた

 

そもそも中小銀行はこの適用期限について、「少なくとも国家非常事態宣言が終了してから12カ月後」に延期して欲しいと嘆願していたようです(具体的には2024年まで)。

 

2024年からの適用ならまだしも、この中途半端な延期を盛り込んでしたり顔の議会。なんだかどこの国も似たような気がします。

J.P.モルガンの決算については、よろしければCFAブログをご参照ください。https://www.cfasociety.org/japan/Lists/Translated%20Articles/DispForm.aspx?ID=470&Source=https%3A%2F%2Fwww%2Ecfasociety%2Eorg%2Fjapan%2FPages%2FBlog%2Easpx

参照:https://news.bloombergtax.com/financial-accounting/banks-turn-against-congresss-virus-relief-from-loan-loss-rule

https://www.alll.com/alll-regulations/fasb-cecl/

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58061910U0A410C2000000/

 

https://www.msn.com/ja-jp/money/other/%E7%B1%B3%E9%87%91%E8%9E%8D%

 

2020年5月9日

 

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