運営:有限会社ピィファ・パートナーズ
毎朝20分ほど読書の時間を作っています。もともとは1冊の本を読み終わるまで別の本を読まないタイプでしたが、そんなことをしていたら、①読みたい本だけを優先する、②積読が増える、③ジャンルが偏る、という事態に陥ってしまいました。そこで子供たちが学校で行っているように「朝読書の時間」というものを設けて、毎日少しずつでも読み進めるようにしたところ、1カ月でだいたい2-3冊は読めることがわかりました。
朝読書のルール
① 1冊5分(切り悪い時は5分以内であれば延長可)
② 1日2-3冊
③ ジャンルはすべて違うものを選ぶ
選書の基準としてはざっくり、自分の専門分野である経済、投資、会計等から1冊、英語・翻訳に関係するものを1冊、その他どの分野でも良いものを1冊、としています。
良かった本、自分の趣味に合わなかった本などいろいろありますが、1カ月で読んだ本をご紹介していこうと思います。
「会計リタラシーで見えないお金が見えてくる」
1.「会計リタラシーで見えないお金が見えてくる」 渡辺俊之著 総合法令出版
ほかの本を検索していて、なんとなく気になって借りた一冊。元公認会計士協会の副理事である著者のエッセイをまとめた本ですが、予想外に(失礼)面白かった。最近売れている本に「役所のしくみ」(久保田章市 著、日経プレミアム)がありますが、公会計と一般会計が大きくかけ離れているということは一般人はなかなか知り得ない。その辺りも面白おかしく書いてくれているのはとても興味深いです。
著者の軽妙な書きぶりにサラっと読めてしまいますが、なかなか奥深い内容。P206 では監査人に求められるものとして「統制環境の中核に据えられるものは、監査論的に考えても、トップの誠実性や倫理観をおいて他にはないのです。・・・・・・つまりマン・ツー・マンコミュニケーションが重要であり、経営者へのインタビューが重要な監査手続きとなり、「人間観察力」が監査人自身に問われるのです」とありますが、まさしくIRミーティングでも求められるのは人間観察力。数字や文字で書かれていることの裏にいる人間の資質などを見極めるのはAIではなかなか難しいのではないでしょうか?
2019年とやや古い本ではありますが、会計の本質にフォーカスを当てているのでさほど問題はないでしょう。なにぶんエッセイ調でまとめているので全体の統一感にややばらつきがあるところが難点ですが、会計にちょっと興味がある方にはお勧めです。
★★★★☆
「外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント」
2. 「外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント」 山口周 著 大和書房
ビジネス書のベストセラー作家の著。筆が立たず、あいさつ文でさえも四苦八苦する私からすると、よくこれだけ立て続けに書けるなぁと感心します。内容はタイトル通り、プロジェクトマネジメントがうまくいくコツについて大まかに書かれています。プロジェクトのような壮大なものを手掛けることはほぼありませんが、人とのかかわりや、小さな仕事にも応用できるプチアイデアは万歳でした。
1.「目的が明確ではないプロジェクトはぽしゃる可能性が高い」-まさしく。「これをやろう!」などと勢いで話を進めていくと、そもそも目的はなんだっけ?となることは結構あります。目的でなく手段ばかり検討してしまうなど耳が痛い話です。「目的」をきちんと定め、ことあるごとに「目的」に立ち戻ることは大事だと痛感します。
2.「ピグマリオン効果」を重視するー日本人は褒めることが苦手ですが、人から期待されるとそれに応えようとするというのは人間の当然の反応です。「うちの子なんてXXXで~」と対外的に謙虚に話すママたちは多いですが、本当は本人に向かって「XXはこんな良いところがあって~」と言ってあげるのが人材育成においては正解ということでしょう。私も猛省すべき点です。
3.「すべての意見を受け入れる」-意見を聞いてもらったという満足感や安心感がチーム力を高め、より闊達な議論に結びつくというのは経験上うなづけます。最終的な結論がどんなものであっても、まずは「聞く」ことが欠かせません。
4.「メンバーを比較しない」-これも実に身につまされます。「他人よりできていない、ということを指摘することで発奮を期待すると言う考え方を持つ人もいるようですが、ぼくはその考え方に与しません」(P202)「メンバー同士を比較するのではなく、メンバー各人の成長に注目してあげること。大事なのは、個別メンバーの強みと弱みを理解したうえで、それぞれ各人の成長を見る、ということです」(P204) こと受験というシステムではピラミッドの頂点に行くことをモチベーションとさせて、競争による成長を促す仕組みが効率的だったのかもしれませんが、その結果がいまの日本の状況であることを考えるとあまり良いシステムではなかったのかもしれません。うちの息子が通った学校など、学力ピラミッドを廊下に貼るようなところだったので、その分野に秀でていない子はさぞ苦しい思いをしたのではないかと思います。学校という組織内のプロジェクト運営と意味ではあまり良いシステムではない気もします。
ということで、プロジェクトマネジメントなんて素敵な作業をすることのない私であっても、それなりに得るもののあった一冊。どちらかといえば自己啓発本やコミュニケーション論(戦略)に近いような気もしますがさらっと読めます。プロジェクトマネジメントとは何ぞやとか、その成功の秘訣、のようなどっしりとしたものをお求めであれば他をどうぞ。
★★★☆☆
「未来から求められる金融 ジャストマネー」
3.「未来から求められる金融 ジャストマネー」カトリン・カウファー、リリアン・ステポネイティス著 江上広之監訳 大濱匠一訳
タイトル名の「ジャスト(just)」には「正しい、公正な」という意味があります。経済において資金を円滑に流通させるという重要な役割を持つ銀行が、自行の利益だけでなく、社会的責任を果たすためには何が必要かを問いかけた一冊。従来の銀行とは異なり、ジャストバンキングを標榜する金融機関は、変革を起こす力=インパクトを重視し、長期にわたり環境や幅広いコミュニティに資するよう資金の流れを作ることを使命としています。
海外にはこうしたインパクト投資をビジネスの中核に据えている事例がいくつか見られますが、日本ではなかなか取り上げられていません。とはいえ、地方銀行や信用組合はそもそもの設立理念が地域コミュニティのための資金調達・提供です。最近は地域金融機関の統合の後、メガバンクとは一線を画す活動にフォーカスした事例も見られるようになってきました。
トランプ政権が誕生以来、SDGsやESGに対して逆風が吹いています。しかし、この夏の異常な暑さや竜巻、台風、水害のみならず、民族の分断などさまざまな側面からより幅広い社会的な利益を考えた経済活動が求められていることは明らかです。
日本CFA協会主催で、訳者の大濱さんによるソーシャルファイナンスの講演とパネルディスカッションが11月17日に大手町の金融ビレッジで予定されています。私も司会を務める予定です。ご興味のある方はぜひご連絡ください。
★★★★★