運営:有限会社ピィファ・パートナーズ
毎朝20分ほど読書の時間を作っています。もともとは1冊の本を読み終わるまで別の本を読まないタイプでしたが、そんなことをしていたら、①読みたい本だけを優先する、②積読が増える、③ジャンルが偏る、という事態に陥ってしまいました。そこで子供たちが学校で行っているように「朝読書の時間」というものを設けて、毎日少しずつでも読み進めるようにしたところ、1カ月でだいたい2-3冊は読めることがわかりました。
朝読書のルール
① 1冊5分(切り悪い時は5分以内であれば延長可)
② 1日2-3冊
③ ジャンルはすべて違うものを選ぶ
選書の基準としてはざっくり、自分の専門分野である経済、投資、会計等から1冊、英語・翻訳に関係するものを1冊、その他どの分野でも良いものを1冊、としています。
良かった本、自分の趣味に合わなかった本などいろいろありますが、1カ月で読んだ本をご紹介していこうと思います。
格差の”格”って何ですか?
1.格差の”格”って何ですか? 勅使河原真衣 著 朝日新聞出版
いかにも朝日新聞のコラムから出版されたなぁと思わせるようなタイトル。著者は組織論を専門とする方で、コラムにありがちな砕けた表現などに最初はちょっと戸惑いますが、本質をついていて非常に面白い。
例えば「自己肯定感を持ちましょう」とよく言われるが、教育再生実行会議の自己肯定感の定義では、「努力することで得られる達成感などを通じて育まれるもの」とされているそうです。「あるがままの自分を承認すること」が自己肯定ではないんだ?という、そもそもの定義自体にバイアスが入っていることがわかります。著者は、自己肯定感を育めばもっと頑張り続ける国民を作り上げられるということを前提にしている組織体制が問題であり、能力次第で存在の承認がされたりされなかったりする社会をそもそも何とかすべきではないかと訴えています。
そう考えると、個々の能力を評価する時に、「できる」「できない」「成長している」「成長してない」と断面的に捉える傾向は非常に危険なのかもしれません。「簡単に『弱い』/『強い』とか、あの人は『成長』している/していない、と個人を称することに私たちはあまりに慣れ過ぎている。・・・・・仮に、『弱い』『成長していない』と見えたとしても、「今は『弱って見える』「目立った『成長』が見えにくい』という『状態』の話に過ぎない」(P108)のであり、そういう人たちがLEGOのブロックのように組み合わさるから、すばらしいものが出来上がる。これが真の多様性なのです。多様性というものを性差や民族といった見えやすい項目だけで判断する社会が、ほころびを見せているのかもしれません。
トランプ政権になり、DEIに対する風当たりが一段と強まっています。DEIを盲目に礼賛するつもりはありませんが、多様な考え方に目を向ける風潮にストップがかかりつつあるのは危険です。さて、本当の平等とは何か、より良い社会にするためにはどうしたらよいか、課題は尽きないようです。100年以上かけてとりあえずマシな社会経済体制として維持されてきた現在の資本主義の綻びを、どう繕っていくのかは壮大な問題。答えを出すのはなかなか難しいですが、問題提起として良書。
★★★★★
着物になった<戦争>時代が求めた戦争柄
2. 着物になった<戦争>時代が求めた戦争柄
乾淑子 著 吉川弘文館
数カ月前の日経の書評になっていた本。Tシャツであれカバンであれ、普段身に付けたりする物に世相や流行が反映されるというのはいつの世の中も一緒です。そう考えると戦争機運が世の中で高まってくれば、着物の柄にも戦争が描き出されるのは至極当然のことかもしれません。ただ、大本営発表や新聞社など、あきらかに世論を左右する目的を持っていたものに対して、着物はあくまで商業的な目的に基づいて戦争柄のものが作れたのであり、決して国民を煽動しようという動機に基づいて戦争柄が作られたわけではないという点が興味深いところです。それでも、視覚的に入ってくるものが人々のマインドに与える影響は少なからずあったはずなので、結果的に戦争に対する国民の意識形成にもインパクトを与えたと考えてよいようです。
先日、山田五郎さんが西洋の絵画に裸の女の人がやたら多い理由を、画家が見たことがなく想像で描いているから、と言ってましたが、戦争柄もほぼ同じ。大本営が発表する勇ましい武勇伝を想像しながら作っているので、結果的にプロパガンダ的な意匠が増えてしまうのです。
特に印象的だった柄は、当時戦費を賄うために発行された「国債」。「何しろ1903年の国家の一年間の歳出は2億5000万円であったのに、日露戦争の戦費は15億円に上ったという。外債なくしては戦い得なかった。つまりこの襦袢に描かれた国債は立派な兵器であったのだ」(P132)。
今、国の予算源の大半を占めている日本国債柄のTシャツを売り出したら結構流行になるのかも。ユニクロさん、ぜひ!
★★★★☆