運営:有限会社ピィファ・パートナーズ
毎朝20分ほど読書の時間を作っています。もともとは1冊の本を読み終わるまで別の本を読まないタイプでしたが、そんなことをしていたら、①読みたい本だけを優先する、②積読が増える、③ジャンルが偏る、という事態に陥ってしまいました。そこで子供たちが学校で行っているように「朝読書の時間」というものを設けて、毎日少しずつでも読み進めるようにしたところ、1カ月でだいたい4-5冊は読めることがわかりました。
朝読書のルール
① 1冊5分(切り悪い時は5分以内であれば延長可)
② 1日3冊
③ ジャンルはすべて違うものを選ぶ
選書の基準としては自分の専門分野である経済、投資、会計等から1冊、英語・翻訳に関係するものを1冊、その他どの分野でも良いものを1冊、としています。
良かった本、自分の趣味に合わなかった本などいろいろありますが、1カ月で読んだ本をご紹介していこうと思います。
1. 「サイコロジー・オブ・マネー」 モーガン・ハウセル著 児島修訳 ダイヤモンド社
ここ数カ月読んでいる経済関連の書はなぜか行動経済学に関わるものが多く、先月の「ノイズ」も然りなわけですが、この本もお金、特に投資にまつわる心理について書いた書籍です。
いま巷の投資理論はマーコウィッツのMPT等に端を発する理論に基づいていると理解していますが(違っていたらごめんなさい)、これら投資理論は数々の仮定の上に成り立っています。人は合理的に行動する、ある資産との相関は一定等・・・。これら理論が投資運用のモデル化や金融工学の発展に果たした役割は絶大であり、それ自体を否定する気はまったくありませんが、その昔ケインズが株式投資を美人投票と評したように、そもそも投資と心理は切っても切り離せず、それを無視して投資を語ることはできないわけです。
それなのに、一時期のLTCMなどウォールストリートのエリート達が理論に基づいてバリバリレバレッジをかけて裁定取引を行い、結局それで飛んだ(揚げ句に立つ鳥跡を濁しまくって、各国えらい目にあった)わけです。そういった流れの中で、経済と人間の心理・行動を組み合わせたお話が増えているのでしょうか。
本書では「投資は運に左右されるもの」で「ごくわずかな成功が全体のリターンを決める」等、投資に関する心理面をわかりやすく説明しています。こういった内容は共感を得やすいため人気なのだと思いますが、結局著者自身はフロー所得の一定金額をパッシブファンドに一極投資するという超ありきたりな資産運用を行っているとのこと。アクティブファンドはパッシブファンドを上回ることができないというロジックに基づけば超王道の資産運用か。
児島さんの美しい日本語も手伝って読みやすい1冊。
★★★☆☆
2. 「人の心に働きかける経済政策」 翁邦雄著 岩波新書
言わずと知れた日銀エコノミスト翁邦雄さんの著書。やっぱりこれも行動経済学に分類される本になるような気がします(いや、金融政策論か?)
翻訳をしているとよくself-fulfilling(自己実現的な)という言葉がよく出てきますが(「こうなるぞ、と思っていると本当にそうなる」みたいなこと)、確かに現実の経済や相場でも、円安になるぞ!と思っていると、みんなが一斉にその方向に進み本当に円安になる、みたいなことってわりと多いわけです。
そうした現実社会の中で、人の心にいかに働きかけながら政策を実行していくか、というのは非常に重要な論点なのだろうと思います。前半は金融・公共政策を行うにあたり、どのように人に「期待」を持たせ、行動をさせていくか、ということを具体的な例を挙げて論じています。フレーミングやナッジについての、コロナ対策やアムステルダムのトイレの話は特に面白くへぇ~×3でした。
でもそれが彼の言いたいことではなく、やっぱり翁さんは日銀だった・・・・。金融政策においていかに量的緩和策が人の心に働きかけられなかったか、という点が本書の本論でした。マネーサプライについてもずっと激論していましたものね。
各国が量的緩和策からの脱却にかじ取りを勧める中、日銀だけはいまだに量的緩和の泥沼から抜け出せませんが、それは本当に人の心に働きかけられなかったせいなのか。歴史が教えてくれる頃には私は生きていないと思いますが、偉い人たちの見解を待つことにしましょう。
★★★★☆