運営:有限会社ピィファ・パートナーズ
毎朝20分ほど読書の時間を作っています。もともとは1冊の本を読み終わるまで別の本を読まないタイプでしたが、そんなことをしていたら、①読みたい本だけを優先する、②積読が増える、③ジャンルが偏る、という事態に陥ってしまいました。そこで子供たちが学校で行っているように「朝読書の時間」というものを設けて、毎日少しずつでも読み進めるようにしたところ、1カ月でだいたい2-3冊は読めることがわかりました。
朝読書のルール
① 1冊5分(切り悪い時は5分以内であれば延長可)
② 1日2-3冊
③ ジャンルはすべて違うものを選ぶ
選書の基準としてはざっくり、自分の専門分野である経済、投資、会計等から1冊、英語・翻訳に関係するものを1冊、その他どの分野でも良いものを1冊、としています。
良かった本、自分の趣味に合わなかった本などいろいろありますが、1カ月で読んだ本をご紹介していこうと思います。
1.「経営戦略としての人的資本開示」 一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム(編) 日本能率協会マネジメントセンター
2023年3月期から有報における人的資本開示が始まりました。人的資本開示の国際規格「ISO30414」では1.ワークフォース可能性、2.ダイバーシティ、3.リーダーシップ、4.後継者計画、5.採用・移動・離職、6.スキル・ケイパビリティ、7.コスト、8.生産性、9. 組織文化、10.組織の健康・安全・ウェルビーイング、11. コンプライアンス・倫理 という11の人的資本領域において58のメトリックスを示しています(P56)。
IRという視点から見ると、人的資本開示は気候変動関連の開示よりはるかに重要な意味があると思います。気候変動の場合、製造業であれば自社に対するインパクト以外に、自社が与えるインパクト(の軽減)というダブルマテリアリティという側面において、自社の取り組みが企業価値の向上につながるケースは多いですが、中小企業やサービス業の場合、能動的に気候変動に対して対策を打つことで企業価値が向上するか?といわれても、なかなか難しい面があります。
一方、人的資本はどの企業にとっても企業価値の源泉であるため、求められているダッシュボード的な開示の他に、自社独自の仕組みやアウトカムを開示することにより、それがどう企業価値につながっているのかをアピールするポイントにもなり得ます。
これから本格的に開示が始まる人的資本。いち早く、ユニークな取り組みをすることで、ステークホルダーからの評価を高めるチャンスにもなります。本書はその基礎として、人的資本とは何か、どういう点に注意が必要かといったことを確認するのに役立つ一冊です。
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2.「戦略的人的資本の開示 運用の実務」 一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム(編) 日本能率協会マネジメントセンター
1.で紹介した「経営戦略としての人的資本開示」の実践編。繰り返しになりますが、人的資本は企業価値を高める源泉であり、その開示が有報という法的開示の一環に組み込まれたことは、投資家にとって非常に有益な情報が与えられる第一歩と考えています。とはいえ、東証の上場会社は約4000社。225銘柄といわれる資本も人も潤沢なブルーチップ企業以外ではすべてが足りず、「何から手を付けていいかわからない」企業も多いと思います。実践編では実際に人的開示を行う場合における課題などを取り上げています。
そもそも人事に対する考え方は企業によってさまざま。自社独自の人に対する取り組み方が正しく、企業価値を向上させるものだと経営陣が考えるならば、それを投資家の視点に立ったナラティブで説明するのが有効でしょう。その際には、開示が良いとされるお手本企業を参考に、自社独自の開示方法を考えるという方法で十分に対応できると思います。
その点において、最近は「良い企業」を積極的に公表する風土が醸成されてきたことは追い風です。東証は来年1月15日から、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた取り組みを開示している企業の一覧表を公表します。また、GPIFは「GPIFの国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」を公表しています。横並び意識が高い日本で、このように優れた企業を公表するという取り組みが増えていること自体、本格的に企業価値の向上をに向けた官民一体の動きが進んでいる現れです。
良い企業の開示を見て真似ることから始めましょう。日本株式市場の時価総額が上昇するきっかけになることを願います。
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